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妻は妻自身の父親のことをひどく嫌悪していた。
驚くほど常に悪口を言っていたので、よく嗜めていた。
かと言って義父が酷い父親かというと決してそうはみえなかった。
ずっと反抗期のような態度をとっていた。
母親に対しては、ろくに世間で働いたことがない世間知らずと言い、
下にみていた。
ただ嫌いではなかったみたい。
でも端から見ていると、とてもいびつな関係に見えた。
気に食わないことがあると、怒り口調で母に詰め寄る。
義母はすぐに謝る。といった感じ。
義母のことを「頭悪いけど、ものわかりがいい」と言っていた。
父親に対しては母親のようには強くあたらず、無視していた。
でも買い物やお金を貰える時、何か用事がある時は徹底的に利用していた。
もちろん親子関係が全て見えているわけではないが、
やってもらっていることについて把握できてるだけでも羨ましくなるくらい。
周りの友達にもそれは言われていたが、
親なんだからそれくらい当然だと。
そうした親子関係で生きてきた妻は、
愛情に対して正直相当にゆがんでいる。
そんな妻だから、子どもへの接し方はかなり危ういものだった。
下の子はまだ1歳なのでそうでもなかったが、
4歳の長女に対しては自尊心、自己肯定感をへし折るようなことを簡単にする。
でも私は子どもたちに幸せな人生を送ってほしい、
自分が自信を持てない人だから、子どもにはそんな苦労をかけたくない、
元気に、そして何事にも信念をもって、たくさんいきいきできる子に育ってほしい、
それだけを思って、妻の防波堤になろうと細心の注意をしながら
たくさんの愛情を注いでいた。
大事な子どもが幸せに成長するように願っていた。
それに長女はいつも答えてくれた。
相対的に父親と一緒にいる時間は短いのに、
いろんなことが自分といる時にできるようになった。
トイレもできるようになった、ネギや玉ねぎ、キノコも食べられるようになった、
鉄棒もできるようになった、ジャングルジムにも1番上まで登れるようになった、
けんけんぱもできるようになった、英語も読めるようになった、
3歳で地下鉄の駅も全部言えるようになった、都道府県も覚えた。
ターザンロープも一人でできたし、お友達とも一緒に遊べるようになった。
みかんの皮も栗の皮も一人で全部むけるようになった。
歯磨きもできるようになった。
何かきっかけを与えてあげると、
いろんなことに挑戦したがった。
そして手伝ってあげながら、できるまで一緒に頑張った。
できることが増えると自分のこと以上に嬉しかったし、
できないことは「また一緒に頑張ろうね」と言って、
2人の宿題にした。
頑張ったことはできてもできなくても「かっこよかったよ」と言って、
2人で称え合った。
その時に幸せそうに笑ってくれる顔が嬉しかった。
そんなことをもう10ヶ月もやってあげられていない。
10ヶ月もあれば、いろんなことを教えてあげられただろうに。
悔しい。悔しい。